国家証券委員会は、国際通貨基金(IMF)が作成したベトナム証券市場の発展に関する評価・提言レポートの内容を公表した。
それによれば、IMFレポートの概要は以下の通りである。
1.割高なPER
証券市場の主要銘柄は、株価収益率(PER)が他国の市場水準よりも高くなっており、ホーチミン証券取引所に上場している。
上位20社(時価総額の99%を占める)の株価収益率(PER)の平均は2007年1月までの計算で、凡そ73倍になる。
新興国では証券価格の急上昇やPER指数の上昇は普遍的な現象だが、以下に示す通り、他国の市場に比べてかなり高い数値になっている。
[各国のPER平均値]
インド・20.4、スリランカ・19.6、台湾・15.8、シンガポール・16.1、フィリピン・15.5、中国・15.4、インドネシア・13.9、タイ・9.6、ベトナム・73.3、ラテンアメリカ新興国・12.5、ヨーロッパ新興国/中東・15.0、世界平均16.2
2006年のベトナム証券市場は上場会社数から株価にいたるまで、これまでにない発展を見せた。市場は2007年に入っても依然として活発に動いている。これはベトナムのマクロ経済の状況が良好な評価を受けていること、WTO加盟により2006年11月から外国からの間接投資が急増したことに起因している。ベトナムへの投資のチャンスが増えれば更に投資は継続されると考えられる。国内投資家、国内銀行、上場していない金融機関が、証券市場を暴騰させたということができるが、背後にはこのような投資資金の流れがある。
2.多くのリスクに直面
銀行貸付による証券購入をチェックできていないことが商業銀行の抱えるリスクの1つである。また近い将来、証券市場が大きな調整局面を迎える可能性も指摘されている。資本不足の銀行にとっては、株価の調整局面は流動資金確保の面で脅威となる。商業銀行が証券市場に関連し、そのリスクを累積しているとすれば、大きな危機にも繋がりかねない。
外貨管理面からのリスクもある。流入していた外資の流れが突然停止、あるいは逆に流出した場合に合理的な当座勘定を維持することは容易なことではない。現在、間接投資が流入してきているため、国際収支における外貨準備高が大きくなっているが、今後WTO加盟によって輸入関税引き下げが実施され、輸入への需要が高まれば、当座勘定は大きな資金不足状態に戻るだろう。
株価が相対的に長期間上昇傾向にあっても、大きな資本の流入は通貨・為替制度の実施にとっても困難を引き起こすだろう。
3.政府の政策対応
国家管理機関も2007年に入って既に対応措置をとっている。まず2007年1月19日、国家中央銀行は金融機関に対して、証券 担保貸付に関する安全比率と各銀行の証券購入を目的とする新規貸付額の上限を定める規定を通達した。
国家証券委員会は証券会社や投資ファンド運用会社に対し、最近の証券取引に関する情報を提供するよう求め、外国投資ファンドの代表事務所に対しては、国家証券委員会に再登録を行うよう要求した。一方上場企業に対しては市場の透明性に関わる規定実施の取締を強化し、より正確で迅速な情報公開を行うよう改善を求めた。
2007年1月29日政府首相は、財務省、国家銀行、国家証券委員会に対して証券市場に関わる外国人投資家の活動への監督強化、また証券市場に関わる規定の実施について取り締まりを行うよう指示、更に一般投資家への情報公開についても改善を求めた。
これまでの行政措置による対応は、証券市場に関わる規定や監査を厳しくすることで、証券市場から金融システムへの悪影響の排除を目的としたものである。
一方通貨・為替政策の領域では、外貨準備と流動資本を連携させて、活発な為替メカニズムへの移行の第一歩を記した。この政策対応は全般的に見て実情に見合ったものであったといえよう。
4.今後取るべき政策
証券市場の暴騰によって発生するリスクを軽減するには、管理機関が安全維持、とりわけ商業銀行の証券市場に関連するリスクを集中的に管理する方向への転換を図るべきである。原則的には、市場リスクや信用リスクを管理するメカニズムがあり、十分な教育レベルを持つ幹部がいる銀行であって初めて、証券を買う、あるいは証券市場に関連するリスクを引き受ける金融許可が発行されるべきである。
外貨・為替に関しては、将来間接投資の資金の流れが変わるといった場合に備えて、十分な外貨を用意する政策を維持するべきである。また中央銀行も外貨準備に有利な場合には、迅速に対応できるように為替を変動させるべきである、更に証券の供給量を増やすためにも、2007-2008年での株式会社化をしっかりと推し進めること、証券取引における透明性を改善し、規則の実践を強化すること、国際基準を満たす情報公開・安全性強化・インサイダー取引への処罰に対して要求を満たしていくこと、など必要である。
最後に資本の監査については、チリ・マレーシア・ロシア・タイの事例について見られる通り、その効果と利益を示したが、ベトナムがWTOに加盟し、国際化を図っている現在、支払うべきコストと比較して慎重に考慮する必要がある。