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用語解説 「ベトナム株・経済情報」とは?
ベトナムのマクロ経済と金融市場
統計数字について

 ベトナムにおける経済統計は、計画投資省傘下の統計総局(GSO)やベトナム国家銀行(中央銀行=SBV)の発表統計、更には世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)の発表に頼るところが大きい。しかしながら公式統計で捕捉している数字は、ベトナム国営企業群、上場企業群、外資系企業群が中心であり、ベトナム人民軍やベトナム人民公安の関連企業、自営業・個人事業主の経済活動まで十分捕捉されているとは言い難い。

 ベトナムの経済規模は公的機関が捕捉して発表している数値よりも実際にはもっと大きい。特に都市部においてはその乖離が顕著であることを念頭に置く必要がある。また、農村部における食料の自給自足も統計に反映されないため、1人当たりの国内総生産(GDP)が小さいわりに生活水準はそれほど低くない印象を受けるかもしれない。

 これに関連し、GSOは2019年12月、2010年~2017年のGDPの見直し結果を公表した。ベトナム人民軍やベトナム人民公安の関連企業など、これまで統計に含めていなかった対象を加えた結果、同期間のGDPは従来の統計結果を年平均で25.4%上回った。ベトナム政府はこうしたように、統計に含まれていなかった数々の経済主体のデータを反映させ、経済の実態を把握することで適切な政策を打ち出す方針だ。
マクロ経済
国内総生産(GDP)成長率

 ベトナム経済の成長を牽引してきたのが、1986年にスタートしたドイモイ(刷新)政策を背景に1990年代半ばから本格化した外国企業の受け入れと都市部の民間企業の成長であったことは言うまでもない。1997年にアジア通貨危機があったものの、1995年以降一貫して、外国からの直接投資(FDI)が農水産加工業・軽工業の成長を牽引し続けた。

 1995年の東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟と米国との国交正常化の前後が第1次投資ブーム、2007年の世界貿易機構(WTO)加盟前後が第2次投資ブーム、そして2010年前後の円高の急進、および尖閣諸島問題が顕在化しチャイナリスクが強く意識されるようになった頃からが第3次投資ブームと呼ばれる。ベトナムはWTO加盟後も国際経済への統合を意欲的に推進し、日越経済連携協定(VJEPA、2009年発効)や、ベトナム韓国自由貿易協定(VKFTA、2015年発効)、ユーラシア経済連合(EAEU)とベトナム間の自由貿易協定(VN-EAEU FTA、2016年発効)、米国抜きの新たな環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)である包括的および先進的な環太平洋パートナーシップ協定(TPP11=CPTPP、2019年発効)、ベトナムEU自由貿易協定(EVFTA、2020年発効)など複数の二国間・多国間の貿易協定を締結しており、これらも外資誘致の原動力になっている。

 農水産加工品や軽工業製品の輸出産業、輸出加工型産業の生産拡大と雇用促進によって、GDPは1990年代からこれまでに増加の一途を辿っている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響により、2020年と2021年のGDP成長率はそれぞれ+2.91%、+2.58%となり、それ以前からは大幅に減速したものの、ベトナム政府による新型コロナに対する早期かつ効果的な封じ込め政策や、経済振興策が功を奏しプラス成長を維持したことは評価できる。

 新型コロナの収束後、内需と輸出が力強く回復したことにより、2022年のGDP成長率は前年の+2.58%から+8.02%へと大幅に加速した。2023年のGDP成長率は+5.05%に減速したものの、引き続き高水準を達成した。

 2023年の名目GDP額は1京0222兆VND(約4140億USD)だったと推定される(GSOデータ)。全国人口(約1億人)に基づいた国民1人当たりのGDPは約4140USDとなった計算になる(為替レート: 1USD=24,702VND)。

 前述のように、国民1人当たりのGDPが小さいわりに生活水準はそれほど低くない。2022年における国民1人当たりの購買力平価(PPP=ある国である価格で買える商品が他国ならいくらで買えるかを示す交換レート)ベースのGDPは1万3461USDで、同年の国民1人当たりのGDP(4164USD)の3.2倍に相当し、東南アジア地域ではフィリピンを上回り、インドネシアを下回る水準となっている。

 ベトナム以外の東南アジア諸国の購買力平価ベースのGDPは、◇シンガポール:12万7607USD、◇ブルネイ:6万9298USD、◇マレーシア:3万3525USD、◇タイ:2万0679USD、◇インドネシア:1万4658USD、◇フィリピン:1万0137USD、◇ラオス:9387USD、◇カンボジア:5355USD、◇ミャンマー:5020USD、◇東ティモール:4657USD。なお、日本は4万5584USDだった(WBデータ)。

 ベトナムは2023年、主要な経済パートナーである米国と日本の大国2か国との関係をそれぞれ格上げし、包括的・戦略的パートナーシップを構築した。包括的・戦略的パートナーシップの締結により、長期的に相互に支援し、相互利益となるあらゆる分野で広範かつ包括的な協力を推進し、戦略的相互信頼を構築していく。2024年1月までに、ベトナムと包括的・戦略的パートナーシップを結んでいるのは、◇中国(2008年)、◇ロシア(2012年)、◇インド(2016年)、◇韓国(2022年)、◇米国(2023年9月)、◇日本(2023年11月)の6か国となっている。
対外収支

 外資誘致、堅調な輸出活動、そして在外ベトナム人(越僑や海外派遣労働者など)からの本国送金は揃ってベトナムの総合収支に大きく貢献している。

 2023年の海外直接投資(FDI)認可額(推定値)は前年比+32.0%増の366億USDへと大幅に増加した。また、同年の実行額(推定値)は同+3.5%増の232億USDに増加した(計画投資省傘下の海外投資局=FIAデータ)。

 また、貿易収支は2016年~2023年に8年連続で黒字を計上し、総合収支に大きく貢献した。中でも、2023の貿易収支は280億USDの黒字で、輸出総額の7.9%に相当し、黒字が続く直近8年間の中でも最高を記録した。

 世界情勢の複雑化を背景に景気低迷が続く中、2023年の輸出総額は前年比▲4.4%減の3555億USDへと小幅に減少し、同年の輸入総額も同▲8.9%減の3275億USDに減少した。同年の輸出額の対GDP比率は9割弱に達しており、東南アジア地域で最も輸出依存度の高い国の1つとなっている。

 この背景として、政府がFDI誘致や輸出志向工業政策を継続的に推進していることが挙げられる。事実、輸出総額をセクター別でみてみると、外資セクターの輸出額が輸出総額の7割強と圧倒的な割合を占めた。主力輸出製品は、コンピューター・電子製品・部品がトップ、続いて、◇携帯電話・部品、◇機械・設備・部品、◇衣料・織物、◇履物、◇車両・部品、◇木材・木工品などとなっている。

 なお、ベトナム最大の輸出先は米国で、輸出総額の約3割を占め、◇中国、◇韓国、◇日本、◇オランダ、◇ドイツなどがその他の主要輸出先となっている。一方、最大の輸入元は中国で、輸入総額の3割を占め、◇韓国、◇日本、◇台湾、◇米国、◇タイなどがその他の主要輸入元となっている。(2023年データ)。

 ベトナムの輸出において韓国の財閥企業であるサムスングループの存在感が高く、同社のベトナム事業全体の売上高はベトナムのGDPの2割、輸出額もベトナムの輸出額の2割に寄与している。ベトナム製のサムスンブランドのスマートフォンは世界100か国・地域以上に輸出されており、全世界の同ブランドスマートフォンのうち、半分がベトナムで製造されている。

 2023年における在外ベトナム人からの本国送金額は160億USDだったと推定される。2000年から2023年の本国送金額の累積額は1760億USD、年平均額は73億USDと試算される。リーマンショックの影響を受けた2008年と、新型コロナが発生した時期を除き、本国送金額は同期間にほぼ増加の一途を辿った。

 この背景には、ベトナムは大量の在外ベトナム人を抱えていることがある。ベトナムでは、第一次インドシナ戦争とベトナム戦争が相次いで発生し、ベトナム戦争後も体制反対や貧困回避のボートピープルなどの海外脱出が1980年後半まで続いたという歴史的な背景があり、米国やオーストラリア、カナダ、フランス、ドイツなどを中心に世界130か国・地域以上に530万人もの越僑が居住している(2023年1月データ)。また、ベトナム政府は貧困対策の国策として1990年代から海外への労働者派遣を強化しており、海外へ出稼ぎに行くベトナム人の数は65万人に上っている(2023年10月データ)。主な派遣先として、日本や台湾、韓国、中国などが挙げられる。

 中央銀行はこれを踏まえ、外貨を継続的に買い入れ、2021年末時点で外貨準備高を史上最高水準となる1094億USDにまで積み上げた。これは、2010年時点の8.8倍、2015年時点の3.9倍に相当した。

 しかし、米国での高インフレを背景とした米国連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの実施を受け、中央銀行は国内通貨を安定化させるべく、2022年中にドン買い・米ドル売りの為替介入を継続的に行った。中央銀行によるドン買い・米ドル売りの為替介入によって、2022年末時点の外貨準備高は865億USDに減少したが、2023年には990億USDにまで回復しており、健全な範囲内だとみられている。
物価上昇率(CPI)

 2007年と2010年の国内消費の盛り上がりや、リーマンショック後の国際商品価格の上昇(特に食糧価格)を背景に、2008年と2011年のCPIはそれを上回る年率20%前後の上昇となった。

 2011年後半からの金融引締め政策による信用収縮とそれに伴う国内景気の減退も相まって、2012年の物価上昇率は前年の18.6%から9.2%に抑制され、2013年は6.6%、2014年も4.1%と一桁台に収まり、2015年には0.63%となり、2002年から2023年までの最低値を記録した。

 2016年~2023年の年間物価上昇率も1~3%台と低い水準に収まっており、マクロ経済の安定化につながっている。世界のエネルギーとサプライチェーンにおいて重要な役割を果たしているロシアとウクライナの2か国間の戦争が2022年2月から続いている中、ベトナム経済も多少の影響を避けることはできないが、2023年のCPI上昇率は前年比+3.3%の低い水準に収まった。
金融市場
外国為替レート

 VNDの対USDの為替レートは2000年代前半はVND15,000/USD~VND16,000/USDで安定的に推移していたが、リーマンショックのあった2008年よりUSD高・VND安傾向が続いた。また、ベトナム当局を悩ませたのは、中央銀行や商業銀行セクターが提示する公式レートと、市中の両替商やゴールドショップが提示する市中レート(闇レートとも実勢レートとも呼ばれる)の乖離が時として広がったことである。

 公式レートは実勢レートの動きを追認する形で時間差をもって引き寄せられるため、乖離が続く間は実質的に二重レートが存在し、中央銀行や商業銀行の外貨保有高が一時的に低下する現象が大きな問題となっていた。

 中央銀行は2016年1月、対USD銀行間為替レート(中銀公定レート)の新しい算定基準を導入した。公定レートの新しい算定方法は、国内の銀行間市場における加重平均レート、国際市場におけるベトナムと貿易相手国、投資国・投資受入国、債権国・債務国との為替レート、マクロ経済の各指標の動き、及び金融政策の目標に基づいて算定される。公定レートは頻繁に調整され、毎日調整される時期もあり、投機筋にとってはリスクが増え、ドル保有心理の減退に繋がり、長期的な為替レートの安定に寄与している。

 前述したように、2022年に入り米国での高インフレを背景とした米国連邦準備制度理事会(FRB)による利上げの実施を受け、中央銀行は国内通貨を安定化させるべく、ドン買い・米ドル売りの為替介入を継続的に行った。このため、周辺諸国と比べると、ベトナムドンの下落幅はさほど大きくなかった。なお、中央銀行が設定する中銀公定レートは2024年1月31日時点で1USD=2万3991VNDだった。
商業銀行セクター

 1990年代までは、金庫・たんす預金と現金決済が中心であったベトナムが、2000年代に入ってから商業銀行の近代化により、企業間取引が商業銀行経由に移行し、2000年代半ば以降与信取引が高成長したことにより、民間企業セクターの高成長を支えてきたことは大いに評価される。

 ベトナムの商業銀行の預金・融資の規模は2000年代半ばから急速な成長をみせた。貸付成長率の推移を示したチャートのとおり、2001年から2023年までの年平均貸付成長率は21%に達し、ベトナムの経済成長に大いに貢献している。2023年には中央銀行が実施した柔軟な金融政策運営と、その他のマクロ経済政策との組み合わせにより、マクロ経済や外為市場は概ね安定した。

 金(ゴールド)市場については、国は金地金大手サイゴンジュエリー(Saigon Jewelry=SJC)のゴールドを国家的なゴールドブランドとしている。これにより、純金99.99%で品質が同じであっても、他のブランドのゴールドはSJCブランドのゴールドよりも低い価格で取引されている。また、ゴールドの輸出入が厳しく規制されているため、国内外のゴールド市場が連動しておらず、国内の価格が国外の価格を大きく上回る乖離が生じ、ゴールドの密輸も横行しているのが現状だ。

 なお、度重なる戦争と戦後の平価切下げを経験したベトナム人は、リスク対策としてゴールドを資産として貯める習慣がある。2024年1月現在、約400tのゴールドが、たんす預金として眠っているとみられる。
株式市場

 ベトナムの証券市場では、ホーチミン証券取引所(HSX、2000年設立)とハノイ証券取引所(HNX、2005年設立)の2か所が政府の管理下で運営されている。証券市場開設当初の出来高は非常に少なく、2005年年初の時点で上場社数は25社程度だったが、その後上場企業数が大きく増加した。

 ベトナムの証券市場の特徴として、国営企業や公社・公団系企業(およびその子会社・関連会社群)の民営化の実験場としての色彩が強いということが挙げられる。株式の上場と同時に政府持ち株を外部に売り出し、株の放出で得られた資金を国家財政に充当するというのが通例になっている。一方、規模は小さいものの純粋な民間企業が今後の更なる成長のために上場するという例も近年に大きく増加している。

 株式市場の低迷を背景に、2023年に実施された株式競売の件数はわずか3件で過去最少を記録した。同年のHSXとHNXへの新規上場企業数も少なく、計9社程度に留まった。 2024年2月1日現在、両市場には計736社が上場しており、時価総額合計は約29.7兆円、日本の株式市場で言えば、時価総額2位のソニーグループの時価総額の1.6倍、時価総額1位のトヨタの時価総額より小さい規模となっている。
VN-index: ホーチミン証券取引所株価指数の推移
ソース:TradingView
HNX-Index: ハノイ証券取引所株価指数の推移
ソース:TradingView