外資誘致、堅調な輸出活動、そして在外ベトナム人(越僑や海外派遣労働者など)からの本国送金は揃ってベトナムの総合収支に大きく貢献している。
貿易収支は2016年~2024年に9年連続で黒字を計上し、総合収支に大きく貢献した。中でも、2024年の貿易収支は248億USDの黒字で、輸出総額の6.1%に相当し、黒字が続く直近9年間で2番目に多かった (2023年の貿易収支は280億USDの黒字)。
世界情勢の複雑化を背景に景気低迷が続く中、2024年通年の輸出額は前年比+14.3%増の4055億USD、輸入額は同+16.7%増の3808億USDだった。同年の輸出額の対GDP比率は9割弱に達しており、東南アジア地域で最も輸出依存度の高い国の1つとなっている。
この背景として、政府が海外直接投資(FDI)誘致や輸出志向工業政策を継続的に推進していることが挙げられる。事実、輸出総額をセクター別でみてみると、外資セクターの輸出額が輸出総額の7割強と圧倒的な割合を占めた。主力輸出製品は、コンピューター・電子製品・部品がトップ、続いて、◇携帯電話・部品、◇機械・設備・部品、◇衣料・織物、◇履物、◇木材・木工品、◇車両・部品、◇水産物などとなっている。
なお、ベトナム最大の輸出先は米国で、輸出総額の29.5%を占め、◇中国、◇韓国、◇日本、◇オランダ、◇ドイツなどがその他の主要輸出先となっている。一方、最大の輸入元は中国で、輸入総額の37.8%を占め、◇韓国、◇台湾、◇日本、◇米国、◇タイなどがその他の主要輸入元となっている(2024年データ)。
ベトナムの輸出において韓国の財閥企業であるサムスングループの存在感が高い。2024年におけるベトナムのコンピューター・電子製品・部品の輸出額は前年比+26.6%増の726億USDで、サムスングループの製品がその大部分に寄与している。ベトナム製のサムスンブランドのスマートフォンは世界100か国・地域以上に輸出されており、全世界の同ブランドスマートフォンのうち、半分がベトナムで製造されている。
2024年における在外ベトナム人からの本国送金額は約160億USDで、このうち、ホーチミン市向けが95億USDだったと推定される。本国送金額は2000年から2024年までほぼ増加の一途を辿り、同期間の累積額は1913億USD、年平均額は77億USDと試算される。
この背景には、ベトナムは大量の在外ベトナム人を抱えていることがある。ベトナムでは、第一次インドシナ戦争とベトナム戦争が相次いで発生し、ベトナム戦争後も体制反対や貧困回避のボートピープルなどの海外脱出が1980年後半まで続いたという歴史的な背景があるほか、ベトナム政府は貧困対策の国策として1990年代から海外への労働者派遣を強化している。米国やオーストラリア、カナダ、フランス、ドイツなどの先進国を中心に世界130か国・地域以上に600万人もの越僑が居住している。ベトナム人労働者の主な派遣先として、日本や台湾、韓国、中国、シンガポールなどが挙げられる(2024年データ)。
また、2024年のFDI認可額(推定値)は前年比▲3.0%減の382億USDだった。また、同年の実行額(推定値)は同+9.4%増の254億USDに増加した(計画投資省傘下の海外投資局=FIAデータ)。
中央銀行は、ドン安圧力の高まりを受け、2024年に102億USDの大規模なドル売り介入を実施した。ドン買い・米ドル売りの為替介入により、2024年末時点の外貨準備高は輸入額の2.5か月分に相当する800億USD超まで減少したと推定される。これは、国際通貨基金(IMF)推奨の安全な水準である「輸入額の約3か月分」を下回っている。
2024年の株式市場全体における海外投資家の売り越し額は約94兆4500億VND(約39億USD)となり、前年の4.2倍となった。これは2021年のピークを63%上回り、過去最高を更新した。売り越しの背景には、低金利、ドン安の進行、新売買システムの導入延期などの要因がある。
なお、2024年の貿易収支や本国送金、FDI流入は堅調であったものの、大規模なドル売り介入や海外投資家の大規模な売り越し、また、誤差脱漏(※)の急増により、2024年1~9月期の総合収支は▲75億USDの赤字を計上した。
(※)「誤差脱漏」とは経済のグローバル化に伴い、統計で把握しきれない取引を調整するための項目である。誤差脱漏の急増は、キャリー取引(低金利の通貨で資金を借り、その資金を高金利の通貨に投資し、金利差による収益を狙う投資手法)が同時期に活性化したことが要因ではないかと推測される。実際、同時期に多くの国々でUSD建ての預金金利が引き上げられた一方、ベトナムではUSD建て預金金利は依然として年0%に据え置かれていた。
|